骨粗鬆症の予防に効果的な運動と始め方、続けるためのポイント
- 2026.08.07
骨粗鬆症の予防に運動が大切だという話は、多くの方がすでにご存知でしょう。しかし「具体的にどんな運動を、どのくらいやればいいのか」が見えないまま、なんとなくウォーキングだけ続けている方が少なくありません。骨を強くするには、骨に対して力学的な刺激を与えることが必要です。
この記事では、なぜ運動が骨に効くのかという仕組みから、体力や年齢に合わせた運動の選び方まで、整形外科医の視点でお伝えします。
なぜ運動が骨粗鬆症の予防になるのか
骨は一度できたら変わらないように見えますが、実際には常に「壊しては作り直す」というサイクルを繰り返しています。このサイクルに運動が深く関わっています。
骨は「使われる」ことで強くなる
骨には「力がかかる方向に強くなる」という性質があります。ウォルフの法則と呼ばれるこの原理は、19世紀から知られている骨の基本的な性質です。歩く、走る、跳ぶといった動作で骨に繰り返し荷重がかかると、骨を作る細胞(骨芽細胞)が活性化し、新しい骨の形成が促されます。
逆に、寝たきりや極端な運動不足で骨に刺激が入らなくなると、骨は急速にもろくなります。宇宙飛行士が無重力空間で骨密度を失うのも、この仕組みによるものです。
つまり、骨に力学的な刺激を与えることが骨粗鬆症予防の出発点です。カルシウムの摂取や薬物療法と並んで、運動は骨を守るための柱の一つになります。
運動には「骨密度を上げる効果」と「転倒を防ぐ効果」がある
骨粗鬆症による骨折を防ぐには、骨密度の維持・向上だけでは十分ではありません。骨折の多くは転倒がきっかけで起こるため、転ばない体を作ることも同じくらい重要です。
筋力トレーニングやウォーキングで骨に刺激を与えながら、バランス運動で転倒リスクを下げる。この両輪が揃って初めて、骨折予防として実効性のある対策になります。
日本骨粗鬆症学会の『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版』では、運動療法は「骨粗鬆症患者の骨折予防に実施することを提案する」(合意率100%、エビデンスの強さ B)と記載されており、骨密度上昇・転倒予防・骨折予防のいずれにも効果が報告されています。
一方で「骨折予防に最も効果的な運動の種類、強度、時間、期間は確立されていない」とも明記されており、画一的な「正解の運動」はないのが現状です。だからこそ、年齢・体力・骨の状態に合わせて自分が続けられる運動を選ぶことが重要になります。
骨粗鬆症予防に効果的な運動の種類
骨を強くする運動と、転倒を防ぐ運動は少し性質が異なります。それぞれの特徴と、具体的な運動例を紹介します。
骨に刺激を与える荷重運動
骨に直接的な力学的刺激を与える運動が、骨密度の維持・向上に最も効果的です。重力に逆らって体重がかかる動作、いわゆる「荷重運動」がこれに当たります。
| 運動の種類 | 骨への刺激 |
|---|---|
| ウォーキング | 中程度 |
| ジョギング | やや強い |
| かかと落とし | 中〜やや強い |
| なわとび・ジャンプ | 強い |
| 階段の昇降 | 中〜やや強い |
骨にかかる力が大きいほど骨を強くする効果は高くなりますが、無理に強い衝撃を求める必要はありません。ウォーキングのように骨への刺激がそれほど大きくない運動でも、継続することで効果が期待できます。大切なのは自分の体力に合った荷重運動を選んで続けることです。
筋力を高めるレジスタンス運動
筋肉が収縮するときに骨には引っ張る力がかかり、これも骨密度の維持に貢献します。特に下半身の筋力を鍛える運動は、歩行時の安定性が増して転倒予防にもつながります。代表的なものはスクワットやかかと上げ(カーフレイズ)です。
自分の体重を使った運動から始め、慣れてきたら軽いダンベルやチューブを加えると負荷を調整できます。
バランス運動と転倒予防
高齢の方にとって、骨折の直接的な原因の多くは「転倒」です。骨密度がある程度保たれていても、転んでしまえば骨折のリスクは上がります。片足立ちや横歩き、つま先歩きといったバランス運動は、体幹や下肢の安定性を高めて転倒しにくい体を作ります。
特に片足立ちを使った「ダイナミックフラミンゴ療法」は、日本運動器科学会で体系化された運動法で、片足で1分間立つだけで大腿骨頭に両足立ちの約2.75倍の負荷がかかることがわかっています。骨への刺激とバランス改善を同時に得られるため、骨粗鬆症予防の運動として整形外科でよく指導されています。
骨粗鬆症予防の運動はどのくらいの頻度で行えばよいか
『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版』は「骨折予防に最も効果的な運動の種類、強度、時間、期間は確立されていない」としており、全員に当てはまる「正解」はありません。その上で、実際に効果が報告されている運動から逆算した実践目安を紹介します。
目安は週2〜3回以上、1回30分程度
骨密度の維持・向上が報告されている運動の多くは、週2〜3回以上の頻度で実施されています。実践目安としては、ウォーキングであれば1回30分程度を週3回以上が現実的なラインです。距離やスピードよりも、継続できる頻度を確保することのほうが効果につながります。
「1日30分」はハードルが高く感じる方は、買い物・通院・散歩など日常の歩行を合算しても構いません。10分のウォーキングを朝・昼・夕に分けるだけでも、骨にかかる荷重の総量は同じです。続けるコツは「完璧な30分を週1回」ではなく、「短くてもいいから今日もやる」を積み重ねることです。
「かかと落とし」や「片足立ち」は毎日でもできる
ウォーキングやジョギングのように外出が必要な運動は、天候や体調に左右されます。一方で、かかと落とし(つま先立ちからかかとをストンと落とす動作)や片足立ちは、自宅で数分あればできる運動です。
かかと落としについては、英国ノッティンガム大学による比較試験(44名の閉経後女性、12ヶ月)で、毎日50回のかかと落としを継続したグループでは、閉経後6年以上の方を中心に大腿骨転子部の骨密度が維持されたと報告されており、これがかかと落とし推奨の出発点になっています。
日々の習慣に取り入れる場合は1日20〜50回程度を目安に、無理のない範囲で続けるのが安全です。片足立ちは数分でできる運動なので、毎日習慣的に取り入れやすいのが特徴です。短時間で済む運動を毎日の習慣に組み込むことで、まとまった運動時間が取れない日もカバーできます。
年齢や体力に合わせた骨粗鬆症予防の運動の選び方
「運動がよい」とわかっていても、膝や腰に痛みがある方や体力に自信がない方にとって、どの運動を選べばよいかは切実な問題です。ここでは体力別の始め方を整理します。
体力に自信がある方は荷重運動を中心に
膝や腰に痛みがなく、普段から歩く習慣がある方は、ウォーキングだけでは骨にかかる刺激の総量が限られます。次のような運動を組み合わせると、骨への刺激の総量を増やせます。
- ・早歩きと普通歩きを交互に繰り返すインターバル速歩
- ・階段の昇降(駅・職場・自宅でエレベーターの代わりに使う)
- ・スクワット・つま先立ち(テレビを見ながら、歯磨きをしながらでも可)
- ・ダンス・太極拳・ヨガ(バランス改善との両立)
- ・軽いジョギングやなわとびのような衝撃のある動き
ただし、強い衝撃のある運動を始める前に、自分の骨密度の状態を一度確認しておくと安心です。骨密度が低下している場合は別のアプローチが必要になります。
膝や腰に痛みがある方はまず負荷の軽い運動から
関節に痛みがある方が無理にジョギングやジャンプを行うと、かえって痛みが悪化して運動そのものが続けられなくなります。その場合は、椅子に座った状態でのかかと落とし、壁に手をついた状態での片足立ちなど、痛みの出ない範囲でできる運動から始めるのが大切です。
痛みの原因によっては運動で悪化させてはいけないケースもあるため、整形外科で運動の可否を確認してから始めるのが安全です。
運動習慣がまったくない方の第一歩
これまで運動をほとんどしてこなかった方がいきなり30分のウォーキングを始めると、筋肉痛や疲労で続かなくなることがあります。まずは「いつもの生活に少しだけ動きを足す」ことから始めましょう。例えば次のような工夫です。
- ・エレベーターやエスカレーターの代わりに階段を使う
- ・テレビのCM中にかかと落としを10回やる
- ・歯磨き中に片足立ちをする
- ・電子レンジの加熱時間中につま先立ちを繰り返す
- ・一駅手前で降りて歩く
こうした「ついでにできる運動」を日常に組み込むことが、習慣化の近道です。体が動くことに慣れてきたら、そこから散歩や体操教室へステップアップしていきましょう。
骨粗鬆症の予防運動で気をつけること
運動は骨粗鬆症予防に有効ですが、やり方を間違えるとかえってケガにつながることがあります。
すでに骨密度が低い方は衝撃の強い運動を避ける
骨密度がかなり低い状態、あるいはすでに骨折の既往がある方が、なわとびやジョギングなどの衝撃の強い運動を行うと、骨折のリスクがあります。こうした方は、かかと落としや片足立ち、椅子を使ったスクワットなど、衝撃が穏やかで転倒の危険が少ない運動を選ぶ必要があります。骨密度検査の結果をもとに、どの程度の運動が安全かを主治医と相談した上で始めてください。
転倒しやすい環境を整える
運動を始めると同時に、家の中の転倒リスクも見直しましょう。高齢の方の転倒事故は、居室や階段、玄関、浴室など家の中で起きることが多いとされています。床の電気コードや小さな段差、滑りやすいマットなど、つまずきの原因になるものを片づけておくことも、広い意味での「骨折予防」です。
運動で体を鍛えることと、生活環境を安全にすることは、車の両輪のようなものです。
運動だけで骨粗鬆症を防げるわけではない
運動は骨粗鬆症予防の重要な柱ですが、それだけで十分ではありません。骨を守るには「運動・栄養・日光浴・薬物療法」の4つの柱を組み合わせる必要があります。
| 役割 | 押さえたいポイント | |
|---|---|---|
| 運動 | 骨への力学的刺激と転倒予防 | 荷重運動とバランス運動を組み合わせる |
| 栄養 | 骨の材料と吸収の確保 | カルシウム1日700〜800mg、ビタミンD、ビタミンK、たんぱく質 |
| 日光浴 | ビタミンDの体内合成 | 屋外でのウォーキングは運動と日光浴を兼ねられる |
| 薬物療法 | 骨吸収の抑制または骨形成の促進 | 骨密度がすでに低下している場合に必要 |
特にビタミンDは食事からの摂取に加え、皮膚に紫外線が当たることで体内で合成されるため、屋外でのウォーキングは「運動」と「日光浴」を同時に進められる点で効率的です。すでに骨粗鬆症と診断されている方には、運動と栄養に加えて薬物療法が必要になる場合もあります。
運動だけ・食事だけでは不十分で、自分の骨の状態に合った組み合わせを医師と相談して決めることが、骨折予防の近道です。
骨粗鬆症の予防運動に関するよくある質問
水泳は骨粗鬆症予防に効果がありますか?
骨密度を上げる効果については、ウォーキングやジョギングほどは期待できません。水泳は浮力で体重が軽くなるため、骨にかかる荷重刺激が小さくなるためです。一方で、筋力維持や心肺機能の向上には有効であり、膝や腰に痛みがある方にとっては貴重な運動手段になります。
骨密度を意識する場合は、水泳だけに頼らず、陸上でのかかと落としや片足立ちなどを組み合わせるのがおすすめです。
骨粗鬆症の薬を飲んでいても運動は必要ですか?
はい、必要です。薬は骨の代謝に働きかけて骨密度を維持・改善しますが、筋力やバランス能力は運動でしか鍛えられません。薬と運動を併用することで、骨折リスクをさらに下げることが期待できます。
「薬を飲んでいるから運動しなくてよい」ではなく、組み合わせて初めて総合的な骨折予防が成立します。
自転車やヨガは骨粗鬆症予防になりますか?
自転車は下半身の筋力を使いますが、サドルに体重が分散されるため骨への荷重刺激は限定的です。ヨガは体幹の安定性やバランス改善に役立ちますが、骨に十分な衝撃を与える動きは含まれにくいです。どちらも健康維持には良い運動ですが、骨粗鬆症予防を主な目的にする場合は、ウォーキングやかかと落としなどの荷重運動と組み合わせることをおすすめします。
まとめ
骨粗鬆症の予防には、骨に力学的な刺激を与える運動と、転倒を防ぐバランス運動の両方が大切です。特別なトレーニングでなくても、ウォーキング、かかと落とし、片足立ちといった身近な運動を継続するだけで、骨密度の維持と転倒リスクの低減が期待できます。完璧な30分を週1回より、短くてもいいから今日もやる、を積み重ねることが結果的にいちばんの近道になります。
西尾久リウマチ整形外科は、日本骨粗鬆症学会認定医・日本リウマチ学会指導医による診療を行っており、看護師・作業療法士もリウマチ財団認定の専門資格を持つチームで対応しています。骨密度検査の結果をもとに、関節の状態や体力に合わせて「いまの自分が続けられる運動」を一緒に組み立てていく体制です。膝や腰に痛みがある方、すでに骨密度が低いと指摘されている方は、運動を始める前に一度ご相談ください。
「いまの状態でどこまで動いてよいか」が分かるだけでも、運動の続けやすさはぐっと変わります。
この記事の監修者
医療の本質は、人と人との繋がりから築かれる信頼関係にあると考えています。
患者様一人ひとりに寄り添い、その方にとって最善の医療を提供できるよう努めてまいります。
経歴
- 暁星学園高等学校卒業
- 昭和医科大学医学部卒業
- 昭和医科大学医学部大学院卒業
- 昭和医科大学整形外科入局
- 新潟県立リウマチセンター国内留学
- 東京女子医大東医療センター整形外科入局
- フランスParis大学リウマチ科留学
- 東京女子医科大学病院膠原病リウマチ痛風センター勤務
- 西尾久リウマチ整形外科開業
資格・認定
- 日本整形外科学会認定専門医・指導医
- 日本リウマチ学会認定専門医・指導医・評議員
- 日本リウマチ学会登録ソノグラファー(リウマチ性疾患の関節超音波検査資格)
- 日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医・脊椎脊髄病医
- 日本リウマチ財団登録医
- 日本骨粗鬆症学会認定医
- 厚労省認定義肢装具等適合判定医
- 東京都難病指定医
- 東京都身体障害者福祉法第15条指定医
- 東京女子医科大学整形外科 非常勤講師
- 昭和医科大学医学部 兼任講師