整形外科の電気治療とは?効果が期待できる症状と治療の受け方
- 2026.08.10
整形外科の電気治療は、TENS・EMS・干渉電流など機器の種類によって働きかける場所が変わり、対象となる症状も異なります。慢性的な腰痛や膝の痛みから術後の筋力低下、関節リウマチに伴う痛みまで、種類ごとの選び方と保険適用を整形外科医の視点で整理します。
整形外科の電気治療とは何か
電気治療とは、体の外から微弱な電気刺激を与えることで痛みを和らげたり、筋肉や血流の状態を改善したりする治療法です。整形外科では「物理療法」と呼ばれるリハビリテーションの一つとして位置づけられています。
電気治療が痛みに効く仕組み
人間の体は、もともと微弱な電気信号で動いています。脳から筋肉への指令も、痛みを感じる神経の伝達も、すべて電気信号です。電気治療はこの性質を利用し、体の外から電気刺激を加えることで神経や筋肉に働きかけます。
痛みの緩和に関わる主なメカニズムはふたつあります。ひとつは「ゲートコントロール」と呼ばれる仕組みで、電気刺激によって触覚を伝える太い神経線維を活性化させると、痛みの信号が脳に届きにくくなります。皮膚をさすると痛みが和らぐのと同じ原理です。
もうひとつは、電気刺激によって体内でエンドルフィンなどの鎮痛物質が分泌されることです。電気治療は「痛みの信号を遮る」ことと「体の鎮痛作用を引き出す」ことの両面から効果を発揮します。
整形外科で電気治療を行う目的
整形外科で電気治療を行う目的は、単に痛みを一時的に抑えることだけではありません。痛みが続くと、その部位をかばって動かさなくなり、筋力が落ちたり関節が硬くなったりする悪循環に入ります。電気治療で痛みを和らげることで、患者様がリハビリや日常生活の動作に取り組みやすくなり、回復全体を前に進める役割を担います。
つまり電気治療は「痛みを取って終わり」の治療ではなく、運動療法やストレッチなど他のリハビリと組み合わせてこそ本来の力を発揮します。整形外科では、医師が症状や回復段階を診ながら、電気治療を含むリハビリ全体の計画を立てていきます。
電気治療の種類と仕組み
電気治療にはいくつかの種類があり、使う電流の特性や目的が異なります。整形外科で使われる代表的な電気治療法を紹介します。
| 種類 | 主な目的 | 特徴 |
|---|---|---|
| TENS(経皮的電気刺激療法) | 痛みの緩和 | 皮膚の上からパッドを貼って低周波電流を流す。神経への刺激で痛みの伝達を抑える |
| EMS(神経筋電気刺激療法) | 筋力の維持・強化 | 筋肉に直接電気刺激を与えて収縮させる。術後や痛みで動かせない部位の筋力低下を防ぐ |
| 干渉電流療法 | 深部の痛み緩和・血流改善 | 2種類の中周波電流を交差させ、体の深い部分に刺激を届ける。皮膚への刺激が少ない |
| 微弱電流療法(マイクロカレント) | 組織の修復促進 | 体内の生体電流に近い微弱な電流で細胞の回復を促す。ほとんど刺激を感じない |
| ハイボルト療法 | 急性期の痛み緩和 | 高電圧の電流を短時間で流し、深部の痛みに素早く作用する |
TENS(経皮的電気刺激療法)
TENSは整形外科の電気治療で最もよく使われる方法です。痛みのある部位の皮膚にパッドを貼り、低周波の電気刺激を与えます。先述のゲートコントロール理論に基づき、痛みの信号が脳に届く前に遮断する働きがあります。
慢性的な腰痛や膝の痛み、肩の痛みなど幅広い症状に用いられます。1回の治療時間は10〜20分程度で、ピリピリとした軽い刺激を感じますが、痛みを伴うものではありません。
EMS(神経筋電気刺激療法)
EMSは筋肉に電気刺激を与え、自分の意思とは別に筋肉を収縮させる治療法です。手術後に筋力が落ちてしまった場合や、痛みのせいで十分に体を動かせない場合に、筋力の低下を防ぎながらリハビリを進めるために使います。たとえば膝の手術後に大腿四頭筋(太ももの前面の筋肉)が弱くなるケースでは、EMSで筋肉に刺激を与えながら徐々に自力での運動に移行していきます。
干渉電流療法
干渉電流療法は、ふたつの異なる周波数の中周波電流を体内で交差させ、その干渉によって生まれる刺激を利用する方法です。低周波に比べて皮膚への刺激が少なく、より深い組織にまで作用できるのが特徴です。肩や腰の深部に痛みがある場合や、血流を改善して回復を促したい場合に選ばれます。
微弱電流療法とハイボルト療法
微弱電流療法(マイクロカレント)は、人間の体内に流れている生体電流とほぼ同じレベルの極めて弱い電流を用いる方法です。骨折後の骨の癒合促進や、捻挫などによる軟部組織の回復を助ける目的で使われます。電流が微弱なため、施術中にほとんど何も感じないのが特徴です。
一方、ハイボルト療法は高い電圧の電流を瞬間的に流すことで、急性の痛みに素早く対応します。ぎっくり腰や捻挫直後の強い痛みに用いられることがあり、短時間で深部に届くため即効性が期待できます。
電気治療で改善が期待できる症状
電気治療はさまざまな整形外科の症状に用いられますが、すべての痛みに同じ効果があるわけではありません。症状のタイプによって向き不向きがあります。
慢性的な痛みへの効果
慢性的な腰痛、変形性膝関節症に伴う膝の痛み、肩関節周囲炎(いわゆる四十肩・五十肩)による痛みなどは、電気治療の効果が期待しやすい代表的な症状です。これらの慢性痛では、痛みそのものが長引くことで筋肉が緊張し、血流が悪化し、さらに痛みが強まるという悪循環が起きています。電気治療はこの悪循環を断ち切る手段として、痛みの緩和と血流の改善を同時に行います。
慢性痛の場合、1回の治療で劇的に痛みがなくなるというものではありません。週に2〜3回程度の頻度で継続して通うことで、徐々に痛みが軽減していくのが一般的な経過です。
急性の痛みやケガへの効果
ぎっくり腰、捻挫、打撲など急性のケガに対しては、ハイボルト療法や微弱電流療法が選択されることがあります。急性期は炎症が起きている状態のため、強い刺激を避けつつ痛みを抑え、組織の回復を促す必要があります。微弱電流療法は細胞レベルでの修復を助けるため、ケガの回復を早めたい場面で用いられます。
ただし急性期の治療は電気治療だけで完結するものではなく、安静・冷却・固定といった基本的な処置と組み合わせて行います。
術後のリハビリテーション
膝や肩の手術後、しばらく動かせなかった部位の筋力が低下しているケースでは、EMSを使った電気治療が有効です。自力で十分に筋肉を動かせない段階でも、電気刺激で筋肉に収縮運動を起こすことで筋力の低下を最小限に抑えます。回復が進むにつれて、電気治療から自力での運動療法に徐々に移行していくのが一般的な流れです。
関節リウマチに伴う痛みへの活用
関節リウマチの方は、関節の炎症による慢性的な痛みやこわばりに悩まされることが多くあります。電気治療は関節リウマチの根本的な治療ではありませんが、痛みの緩和や関節周囲の血流改善を図る補助的な手段として活用できます。薬物療法で炎症をコントロールしながら、リハビリの一環として電気治療を取り入れることで、日常生活の動きやすさを維持しやすくなります。
関節リウマチの場合は、炎症が強い時期には電気刺激の種類や強さを慎重に選ぶ必要があります。医師がその時々の症状を見ながら適切な方法を判断しますので、痛みの状態に変化があれば遠慮なく伝えてください。
電気治療を受けるときに知っておきたいこと
電気治療を実際に受けるときには、通院の頻度や受けられない条件、施術中の感覚など、事前に把握しておきたい実務的なポイントがいくつかあります。順に整理します。
治療の頻度と期間の目安
電気治療の頻度は症状や目的によって異なりますが、一般的には週2〜3回の通院が推奨されます。1回の施術時間は10〜20分程度です。毎日受けても問題ありませんが、1日に何度も受けるよりも、一定の間隔で継続するほうが効果的です。
治療を続ける期間は症状の種類で大きく変わります。急性の痛みやケガの場合、痛みが落ち着くまでの数日から数週間で施術を終えるケースが多く、1〜2回で明らかに楽になることもあります。一方、慢性的な腰痛や膝痛では数週間から数ヶ月の継続が必要で、効果を実感し始めるまでに数週間かかることもあります。
「1回受けたけどあまり変わらなかった」と感じて中断してしまう方がいますが、慢性痛では痛みの悪循環を断ち切るために継続が重要です。
症状が改善したあとは、通院をやめるか頻度を減らして維持目的で通い続けるかを医師と相談しながら決めます。
電気治療を受けられない方・注意が必要な方
以下に該当する方は、電気治療を受ける前に必ず医師に申し出てください。
- ・心臓ペースメーカーや植込み型除細動器を使用している方(電気刺激が機器の動作に影響する可能性があるため)
- ・体内に金属が入っている方(金属部位に電流が集中し、痛みや熱を感じる可能性があるため)
- ・妊娠中の方
- ・皮膚に傷や炎症がある部位
- ・悪性腫瘍がある方
- ・タトゥー・刺青がある部位
ペースメーカーや植込み型除細動器を使用している方は、電気治療全般が禁忌となります。
体内に金属がある方は、金属の位置によっては別の部位で施術できる場合がありますので、医師に相談のうえ判断します。タトゥー・刺青がある部位については、低周波治療器の添付文書で施術部位として避けるよう注意喚起されています(色素への影響や皮膚刺激が生じる可能性があるため)。タトゥーのない別の部位で施術できる場合は問題なく受けられます。
電気治療は痛いのか
電気治療で強い痛みを感じることは通常ありません。TENSや干渉電流療法ではピリピリとした軽い刺激を感じる程度で、「心地よい」と感じる方も多くいます。微弱電流療法に至っては、施術中にほとんど何も感じないのが普通です。
電気の強さは患者様ごとに調整します。「強いほうが効く」と思い込んで我慢する必要はありません。むしろ電気刺激が強すぎると、筋肉が防御反応で緊張してしまい、逆効果になることがあります。心地よいと感じる強さで受けるのが最も効果的です。
電気治療の費用と保険適用
整形外科で行う電気治療は、多くの場合健康保険が適用される保険診療です。医師が必要と判断した電気治療は「消炎鎮痛等処置」として保険点数が算定されます。
保険適用時の自己負担額は、3割負担の方で1回あたり数百円程度です。電気治療の処置料に加えて、初診料や再診料、必要に応じてレントゲンなどの検査費用が別途かかります。慢性的な痛みで週2〜3回通院する場合でも、1回あたりの窓口負担は比較的抑えられます。
ただし、一部の特殊な電気治療や、保険適用の条件を満たさないケースでは自費診療となる場合もあります。費用面で不安がある方は、受診時に窓口でおおよその金額を確認しておくと安心です。
整形外科の電気治療に関するよくある質問
電気治療だけで痛みは治りますか?
電気治療だけで痛みの原因が根本から解消することはありません。電気治療は痛みを和らげるための手段の一つです。整形外科では、電気治療に加えて運動療法やストレッチの指導、必要に応じて薬物療法や注射療法を組み合わせ、総合的に症状の改善を図ります。
電気治療で痛みが和らいだ状態を利用して、体を動かすリハビリに取り組むことが回復への近道です。
整骨院の電気治療と整形外科の電気治療は何が違いますか?
最も大きな違いは「医師の診断があるかどうか」です。整形外科ではレントゲンやMRIなどの画像検査で痛みの原因を特定したうえで、適切な電気治療の種類と条件を選択します。また、整形外科の電気治療は医師の指示のもとで行われるため、多くの場合健康保険が適用されます。
使用する機器自体は似たものもありますが、診断の有無と保険適用の点で性質が異なります。
電気治療は毎日受けても大丈夫ですか?
毎日受けても問題ありません。ただし、1日に何度も繰り返し受けるよりも、1日1回を継続するほうが効果的です。痛みが強い時期はなるべく間隔を空けずに通院し、症状が落ち着いてきたら徐々に頻度を減らしていくのが一般的な進め方です。
まとめ
整形外科の電気治療は、痛みの緩和、血流の改善、筋力の維持といった複数の目的で用いられる物理療法です。TENS、EMS、干渉電流療法、微弱電流療法など種類があり、症状や回復段階に応じて使い分けます。電気治療は単独で痛みを根治するものではなく、運動療法や薬物療法と組み合わせてこそ効果を発揮します。
西尾久リウマチ整形外科は、日本整形外科学会認定の専門医・指導医・運動器リハビリテーション医による診療を行っており、理学療法士・作業療法士による個別リハビリと電気治療を組み合わせた体制を整えています。2025年6月からは保険診療対応の体外衝撃波治療機器も導入し、慢性的な腱や関節の痛みに対する選択肢を増やしました。腰痛・膝痛・肩こり、関節リウマチに伴う痛みなど、整形外科の症状でお悩みの方は、まずは原因の特定からお気軽にご相談ください。
この記事の監修者
医療の本質は、人と人との繋がりから築かれる信頼関係にあると考えています。
患者様一人ひとりに寄り添い、その方にとって最善の医療を提供できるよう努めてまいります。
経歴
- 暁星学園高等学校卒業
- 昭和医科大学医学部卒業
- 昭和医科大学医学部大学院卒業
- 昭和医科大学整形外科入局
- 新潟県立リウマチセンター国内留学
- 東京女子医大東医療センター整形外科入局
- フランスParis大学リウマチ科留学
- 東京女子医科大学病院膠原病リウマチ痛風センター勤務
- 西尾久リウマチ整形外科開業
資格・認定
- 日本整形外科学会認定専門医・指導医
- 日本リウマチ学会認定専門医・指導医・評議員
- 日本リウマチ学会登録ソノグラファー(リウマチ性疾患の関節超音波検査資格)
- 日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医・脊椎脊髄病医
- 日本リウマチ財団登録医
- 日本骨粗鬆症学会認定医
- 厚労省認定義肢装具等適合判定医
- 東京都難病指定医
- 東京都身体障害者福祉法第15条指定医
- 東京女子医科大学整形外科 非常勤講師
- 昭和医科大学医学部 兼任講師